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事例・判例
針刺しの労災補償に係る事例 2
病院の看護助手が暴れる患者に腕をかまれてC型肝炎に罹患した場合、病院に安全配慮義務違反があったとして責任が認められた事例 (大阪地裁平16・4・12・判例時報1867号81頁)

【事案】原告は、被告の病院に勤務する看護助手であり、勤務傍ら看護学校に通学していた。ある日、脳内出血の救急患者が病院に搬送され、せん妄状態に陥り、ベッド上で激しく暴れたため、主任看護士の指示で、原告は数人の看護士とともに患者の体を押さえつける作業をしたところ、いきなり患者に腕を噛み付かれた。 この患者はC型肝炎ウイルスに感染しており、原告は噛み付かれたことにより自身も罹患し、劇症肝炎さらに敗血症も発症し、その後慢性肝炎となった。そこで、原告は病院の管理責任(安全配慮義務違反)を追及して、提訴した。

【判旨】判決は、病院などの医療現場では、診療・看護に従事する職員にも病原体による感染などの危険が生ずる場合があるから、使用者としては、管理体制を整え、適切な感染予防処置を講じるなど、職員が安全に業務に従事できるように配慮する義務があるとした上で、原告はこの病院に勤務してから約半年しか経過しておらず、このように作業に習熟していない者に対しては、その作業を命ずべきではないのにもかかわらず、作業を命じたのであり、そして、このように作業中に作業従事者が患者から危害を加えられ、何らかの病原体に感染することは予見可能であったとして、病院に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を認めました。

【解説】労働災害をはじめとする一定の信頼関係に基づいた契約関係における事故については、判例上、不法行為責任だけではなく、安全配慮義務違反(職員が安全に業務に従事できるように配慮する義務)という法律構成が認められています。 その場合、安全を配慮すべき義務とはどのようなものか、が問題となりますが、本件では、義務の存立の根拠は(1)病院は、その性質上、患者のみならず診療看護に従事する職員にも危険(特に病原体による感染の危険)(2)特に、患者の抑制作業は強制的な実力行使だから、危険(3)原告はまだ看護助手で抑制の方法を学んだこともなく、このような者に抑制作業をさせるのは危険というように、具体的に病院の性質や作業の内容を踏まえて、積み重ねて導いており、説得的です。 また、「患者に腕を噛まれたこと」と「C型肝炎に感染したこと」とのあいだの因果関係についても、被告は争っており、その中で様々な事実を積み上げて因果関係を認定しており、その点でも興味深い判決です。

針刺しの労災補償に係る事例 1
医療従事者である請求人が感染した「C型肝炎ウイルス」は、業務上の事由によるものと認められるとして、原処分を取り消した事例(平成19年) http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/07/rousai/txt/26.txt

【事例概要】病院に勤務する医療従事者(看護師)が感染した 「C型肝炎ウイルス」の療養に関して、労災申請を行ったところ、労基署は業務外の判定をしたのを不服として労働保険審査会に申し立てが行われた事例。労働保険審査会は、業務上の事由によるものと認められるとして、原処分(監督署長は、本件疾病は業務上の事由によるものとは認められないとの判断)を取り消した事例。

【解説】労働保険審査会は、労災保険及び雇用保険の給付処分に関して、第2審 として行政不服審査を行う国の機関です。通常、仕事が理由で怪我をしたり疾病にかかった場合には労働基準監督署に療養給付申請を行い、診断や治療などに要した費用の請求を行います。療養給付申請を行う本人の怪我や疾病が仕事が原因と考えられる場合を「業務上」、仕事と関係しない場合を「業務外」と呼びます。
本事例は上記のリンク内の「2.当審査会の判断」で解説されているように、明らかな針刺し切創、血液粘膜曝露の時期や事象が確認・記録されていません。しかし、状況証拠より、業務上でC型肝炎ウイルスに感染したと判断するに相当な事由があった(感染する機会は働いている病院での感染機会以外にはない就労環境であった)と判断し、業務上と判断されています。 また、経過のなかで、院長は「報告されていないのだから、感染したのは当病院でのものかどうかわからない」としていますが、請求した医療従事者は「「先生には報告していない。看護婦同士でかばい合っていた。」と述べており、当時の毎日多忙な業務をこなす過程で、医師には報告しないで済ませた状況があったものと推認される。」と記述されています。本事例は、感染源や感染機会の不明なC型肝炎ウイルスに罹患した医療従事者の救済に役立つ重要な情報です。(JRGOICP 吉川徹、木戸内清)

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