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1.血液媒介感染症とは 2.針刺し切創による感染率 4.血液体液曝露後の対応
4.血液体液曝露後の対応
 標準予防策では、すべての血液・体液に感染性があることを前提とするが、B 型肝炎ウイルス(HBV)、C 型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のような血液媒介ウイルスの実際の曝露源として最もリスクが高いのはやはり血液である。 血液と比較するとその他の体液の感染性は劣るが、母乳、羊水、脳脊髄液、腹水、胸水、関節液、精液、膣分泌物については HBV 、HCV 、HIV の感染成立例の報告があって感染性が比較的高いと考えるべきである。 一方、唾液、喀痰・気道分泌液、尿、便、嘔吐物、涙液、汗では HIV 感染伝播の報告例はなく、ほとんどなく感染力は低いと考えらえる。 また、医療従事者がどのように血液・体液に曝露されたかによってもリスクは異り、最も危険性が高いのは針刺し・切創のような経皮的損傷である。 とくに使用後の中空針や血管内留置針のような血液の付着が視認できるような使用後器材、受傷機転としては深い刺傷はリスクが高く、縫合針による擦過創では危険性はやや低くなる。 粘膜や皮膚損傷部位への血液・体液曝露はさらにリスクが低いと考えられるが、さらに曝露された血液・体液の量によってもリスクは異る。(表 1.)

表 1. 医療従事者の血液・体液曝露のリスク
曝露源によるリスク
最もリスクが高い 血液
リスクが高い 母乳、羊水、脳脊髄液、腹水、胸水、関節液、精液、膣分泌物
リスクは比較的低い 唾液、喀痰・気道分泌液、尿、便、嘔吐物、涙液、汗
曝露様式によるリスク (器材;曝露部位)
リスク高 使用後の中空針や血管内留置針、血液の付着を視認; 針刺し・切創、とくに深い刺傷
リスク中 縫合針 擦過創
リスク低 粘膜、皮膚損傷部位への曝露 (曝露量 多 > 少)


 医療従事者が血液・体液曝露を受けた場合、曝露部位を流水と石鹸で十分に洗浄した後、それぞれの施設のルールに従って職員健康管理部門へ連絡するなど、迅速に対応するべきである。 曝露部位の洗浄の方法や消毒の必要性、受傷部位から血液・体液を絞り出すようにする手技が必要であるか、いずれも効果が確認された方法はなく、常識的な範囲で対応すればよいと考える。 ただし、曝露の頻度が比較的高い眼球結膜については洗浄しやすい手順を事前に提示しておくのが望ましい。 わが国の病院ではあまり見かけないが、海外の病院では眼球洗浄用に上向きで二口の水道蛇口を見ることが多い。

 血液・体液曝露に際しては、曝露源患者の HBV 、HCV 、HIV のステータスをそれぞれ血清 HBs 抗原、抗 HCV 抗体、抗 HIV 抗体(最近は血清 HIV 抗原迅速検査も普及している)によって確認し、曝露を受けた医療従事者(被曝露者)の HBV ワクチン接種歴および血清抗 HBs 抗体、抗 HCV 抗体、抗 HIV 抗体を確認する。曝露後予防策とフォローアップについてはこれらの結果に応じて対応する方法が異る。 なお、マラリアやデングなどのその他の病原体についても針刺し・切創による職業感染事例が報告されており、曝露後において確立された対応策はないが、曝露源患者の検査結果にかかわらず、医療従事者の血液・体液曝露はすべてを報告して記録にとどめる必要がある。ただし、これまで確認された梅毒の職業感染事例はなく、HIV 感染症のウインドウ期、すなわち感染成立直後で血清抗体が出現するまでの感染ごく早期にある曝露源患者から医療従事者の感染成立が認められた事例は報告されていない。

 なお、被曝露者が抗体を持たず感染成立リスク(感受性)がある場合、針刺し・切創による HBV 、HCV 、HIV の感染成立頻度はそれぞれ 30% 程度、3% 程度、0.3% 程度とされる(表 2.)。 粘膜や皮膚損傷部位への曝露による感染成立頻度について、確立された一定の数字はないが、それぞれの病原体について針刺し・切創の 10 分の 1 以下と考えられている。

表 2. 被曝露者に感受性がある場合、曝露源病原体による針刺し・切創に伴う感染成立頻度
B 型肝炎ウイルス(HBV) 10% - 30%
C 型肝炎ウイルス(HCV) 1.8% - 5%
ヒト免疫不全ウイルス(HIV) 0.4%
B 型肝炎(HBV)
  HBV は血液媒介ウイルスの中でもとくに感染力が強く、すべての医療従事者はワクチン接種により HBV への抵抗性を獲得すべきである。 医療従事者が HCV や HIV の感染症と診断された場合、職業上曝露がいつであったのか記憶されているのがほとんどであるのに対して、HBV では曝露の契機が不明な医療従事者が多い。 HBV は条件によって環境表面でも数日間にわたって感染力を維持することがあり、この点でも他の HCV や HIV と比較してもリスクが高いと認識するるべきである。

 HBV ワクチンでは 1 シリーズで 3 回の接種(初回・1 か月後・3-6 か月後)を受ける。3 回目の接種から 1-2 か月後に抗 HBs 抗体を測定して陰性(10 mIU/mL 未満)であれば無効と判定する。最初の 3 回接種が無効であった場合、さらに 2 シリーズ目として 3 回接種を追加すると 30%-50% に抗 HBs 抗体が陽性となり有効であるとされる。一方、2 シリーズの HBV ワクチン接種が無効であった場合、3 シリーズ目の接種での陽転化は難しく、HBV のリスクからは接種を妨げるものではないが、積極的に推奨する理由はない。むしろ、後述するように HBV ワクチン 2 シリーズの接種でも抗 HBs 抗体陰性であった場合、HBV に対する曝露後予防策に特別な配慮が必要であり、このような無反応者にはこの点を注意喚起しておく必要がある。

 医療従事者が HBV に抵抗性がない場合、すなわち HBV ワクチン未接種であるか、接種歴が不詳で抗 HBs 抗体陰性(10 mIU/mL 未満)である場合、針刺し・切創によって感染成立する頻度は 10%-30% であり、ときに劇症肝炎による死亡も報告されていることから、曝露後の予防策として高力価抗 HBs 免疫グロブリン(HBIG)投与(0.06 mL/Kg 筋注)と 3 回の HBV ワクチン接種が推奨される。 HBIG 投与は曝露後出来るだけ早期、遅くとも 1 週間以内とする。一方、ワクチン接種によって抗 HBs 抗体が 10 mIU/mL となったことが確認されている陽転者(responder)については HBV 曝露に際しては特別な対応は必要なく、獲得した抗 HBs 抗体の力価は経年変化するがたとえ 10 mIU/mL 未満となっていたとしても発症を防止する免疫反応が期待されるため追加の対応は必要ない。 ただし、ワクチン接種による抗体獲得者に急性 B 型肝炎の発症は認められないが、血清抗 HBc 抗体が陽転する事例があることは知られており、HBV 曝露時に抗 HBs 抗体陰性であればとくに注意してフォローアップするのが妥当である。 なお、2 シリーズにわたる HBV ワクチン接種でも抗体陰性のままである場合(non-responder)が HBV 曝露を受けた際の HBIG 投与を直後と 1 か月後の 2 回とすることが推奨される。(表 3.)

表 3. B 型肝炎ウイルス曝露時の対応

被曝露者の状況
曝露源患者の状況
血清 HBs 抗原陽性 血清 HBs 抗原陰性 不明
HBV ワクチン未接種 HBIG 投与
+ HBV ワクチン接種
HBV ワクチン接種
HBV ワクチン接種後 血清抗 HBs 抗体未確認
 
抗体価測定の結果により対応 経過観察
血清抗 HBs 抗体陽性
(10 mIU/mL)の記載あり
経過観察 経過観察
ワクチン 2 シリーズ接種後も陰性
(non-responder)
HBIG 投与 2 回
(直後および 1 か月後)
経過観察

  なお、HBV 曝露後のフォローアップとしては、曝露後 6 か月まで被曝露者の血清 HBs 抗原、抗 HBc 抗体を測定するのが適当である。
C 型肝炎(HCV)
 医療従事者に対する針刺し・切創で HCV が感染成立する頻度は約 2% とされており、HCV に対する確立された曝露後予防策はない。被曝露者に対する経過観察としては曝露 1-6 週間後を目途に血清 HCV-RNA ウイルス量をチェックする。 これは血清抗 HCV 抗体が陽転化した後よりも早期に急性 HCV 感染症をとらえた方が、早期治療によって慢性化を防止できると考えられて来たためであるが、これまでのインターフェロン療法を中心とした HCV 感染症治療はより効果的でより副作用の少なく安全性の高い抗ウイルス薬(DAA)投与に取って代わられつつあることから、HCV 曝露後管理についても近く新しい方法論が導入されるものと考えられる。 なお、被曝露者については曝露後 6-12 か月まで血清抗 HCV 抗体をモニターするべきである。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
 医療従事者に対する 1 回の針刺し・切創で HIV が感染成立する頻度は約 0.4% である。血液・体液曝露が発生した場合、出来るだけ早期に専門医に相談の上で、曝露後予防のための抗レトロウイルス薬を服用すべきか相談することが望ましい。 被曝露者の妊娠の可能性にも配慮が必要ではあるが、曝露後予防投与を優先するのが一般的である。 投与期間は 4 週間とする。かつては血液・体液曝露の状況と曝露源患者の血清 HIV-RNA ウイルス量(目安として 1,500 コピー/mL 未満または以上)を考慮して抗レトロウイルス薬を選択していたが、最近では副作用も少なく、一律のレジメン((テノフォビル TDF 300 mg + エムトリシタビン FTC 200 mg) PO qd + ラルテグラビル RAL 400 mg PO bid)とすることが多い(表 4.)。 ただし、曝露源となった患者が既に抗レトロウイルス薬を受けている場合など、耐性ウイルスの懸念などもあり、やはり専門医へ相談することが望ましい。HIV 曝露後のフォローアップとしては 4-6 週後および 3 か月後、6-12 か月後に抗 HIV 抗体をチェックする。

表 4. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)曝露後予防策
ツルバダTM 1 錠 1 日 1 回 + アイセントレスTM 1 錠 1 日 2 回

参考となる資料
  1. HIV感染防止のための予防服用マニュアル (東京都版)
    http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/koho/kansen.files/manual.pdfpdf
    ※基本的な内容が網羅されています。
  2. HIV感染防止のための予防服用マニュアル(第2版)(高知県版)
    http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/130401/files/2017120800180/file_201709kochiHIVmanyuaru2.pdfpdf
    ※高知県内での配薬医療機関などが掲載されています。

参考文献
1) Centers for Disease Control and Prevention. Updated US Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational Exposure to HBV, HCV, and HIV and Recommendations for Post-exposure Prophylaxis. MMWR 2001; 50 (RR-11): 1-52
2) Schillie S, Murphy TV, Sawyer M, et al. CDC Guidance for Evaluating Health-Care Personnel for Hepatitis B Virus Protection and for Administering Postexposure Management. MMWR 2013; 62 (RR-10): 1-19
3) Kuhar DT, Henderson DK, Struble KA, et al. Updated US Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational Exposure to Human Immunodeficiency Virus and Recommendations for Postexposure Prophylaxis. Infect. Control Hosp. Epidemiol. 2013; 34: 875-92