N95/DS2マスク除染と再利用に関する情報公開ページ
(2020年6月1日更新)
N95マスクの除染(除菌)/再利用に関するQ&A
よくある質問(FAQ)ver. 1.1
このページは
N95DECON の
FAQ を職業感染制御研究会/N95DECON連携翻訳チームによって邦訳したものです。必要に応じて訳注を入れています。
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こちら
目次
※N95 FFRの用語・解説を参照のこと
一般的な略語
PPE(Personal protective equipment): 個人防護具または個人用保護具
FFR(Filtering facepiece respirator, also colloquially referred to as a mask): 使い捨て式防じんマスク(訳注:またはろ過型フェイスピース呼吸用保護具)、俗に単に「マスク」とも呼ばれる
N95 FFR(N95 Filtering facepiece respirator, also colloquially referred to as an N95 respirator or an N95 masks):N95規格の使い捨て式防じんマスク(訳注:N95呼吸用保護具、N95レスピレーター、N95防護マスク)、あるいは医療現場では一般的にN95マスクとも呼ばれる
COVID-19: SARS-CoV-2により引き起こされる疾病名
SARS-CoV-2: COVID-19の原因となるウイルスの名称で、コロナウイルスの一種
CDC (Centers for Disease Control and Prevention): (米国) 疾病管理予防センター
NIOSH (National Institute for Occupational Safety and Health, a branch of the CDC that makes recommendations on occupational safety and health):
CDC の一部門で、労働安全衛生(働くことに関連した安全と健康)に関する勧告を行っている
誰が N95マスクを着用すべきですか?
CDCのガイドラインは、N95マスクは「医療従事者で、空気感染ならびに液体による感染の危険(例:液体がとびちったもの、しぶきなど)から身を守る必要のある者のみ、その使用が推奨されます。これらの呼吸用保護具(レスピレーター)は、医療外では使われず、その必要性もありません。」としています(訳注:N95マスクは産業用等で粉じん障害防止のためにも実際は利用されています。ここでは空気感染や病原体が含まれる飛沫感染などを防止するために専門的なトレーニングを受けた医療従事者が利用するもので、一般人が利用するものではないと強調する目的で説明していると思われます)。現時点でCDCは、一般の人々は布製マスクを使用するよう勧告しています。
布マスクの洗浄や再使用についてのガイドラインの詳細については、
こちらのウェブサイトをご確認ください。
N95マスク(使い捨て式呼吸用防護具)、サージカルマスク、布マスクの違いは?SARS-CoV-2に対する予防効果はどの程度ですか?
N95マスク(使い捨て式呼吸用防護具)(または FFR)、サージカルマスク(または医療用マスク)、および布マスクは、ろ過の方法が異なり、それゆえ、SARS-CoV-2 の予防レベルが異なります。
N95マスクはサージカルマスクや布マスクに比べてろ過率が高いですが、3つのマスクはいずれもSARS-CoV-2に対するある程度の予防効果があり、どのタイプのマスクを着用しても感染をある程度コントロールすることができます。
これら3種類のマスクの比較については、ペンシルバニア州保健省の
文書
と、N95DECONの
医療用マスクと布マスクに関する技術レポートを参照してください。
N95マスクがどのように働くかについては、N95DECONの
N95ファクトシートとアリゾナ州立大学の
ビデオを参照してください。
N95マスクの上にサージカルマスクや布マスク、フェイスシールドを装着することで、N95マスクの使用期間を延長することができますか?
延長使用における推奨事項の一つとして、CDCは、医療従事者に「マスク表面の汚染を減らすために、洗浄可能なフェイスシールド(好ましい)をN95マスク上に被せることの検討」を求めています。このガイダンスでは、N95マスクの覆いとしてサージカルマスクを装着するとユーザーの負担が増加するという
研究を示し、「N95マスクの汚染軽減目的には、サージカルマスクの使用よりも洗浄可能であるフェイスシールドの使用が強く推奨されること」「公衆衛生上の緊急時にはサージカルマスクの供給も限られていること、およびサージカルマスクの使用が N95マスクの機能に影響を与える可能性があるという懸念」を指摘しています。
期限切れのN95マスクを使用しても安全ですか?
CDCは、メーカー指定期限を超過したN95マスクを使用することを、供給が不足する状況における供給最適化戦略の1つとしています。
ただし、CDCがその
ガイドラインで指摘しているように、期限切れの呼吸用保護具は、「しめひもやノーズブリッジなどの部品が劣化する可能性があり、フィット性や密着性に影響を与える可能性がある」ため、注意して使用する必要があります。
N95マスクの代替品として、どのような使い捨て式の防じんマスクが使えますか?
CDCのガイドラインでは、NIOSHの承認を受けたN95マスク替代品の使用を認めています:「承認された代替品には、他の規格クラスの使い捨て式防じんマスク(訳注:「他のクラス」とはN95規格以外のN99、N100等の他の性能レベルを指すと思われる)、
半面形取り替え式防じんマスクと全面形ろ過式呼吸用保護具、電動ファン付き呼吸用防護具(PAPR)が含まれます。これら代替品は全て、適切に装着すれば、N95マスクと同等またはそれ以上の予防効果を発揮します。」
NIOSHが承認した他の使い捨て式防じんマスクには、N99、N100、P95、P99、P100、R95、R99、R100がありますが、これらの違いについては
こちらで説明します。
緊急時、CDCは、他国基準のN95マスクに相当する呼吸用保護具の使用も承認していますー詳細については
こちらをご覧ください。
N95マスクは、FFP2、KN95、他国のマスク等とどのように異なりますか?
呼吸用保護具の規制基準は国によって異なります。危機的状況下では、CDCは「NIOSHが承認した呼吸用保護具に準ずる他国での規格承認された防護マスクの使用」を承認し、国際基準がNIOSH基準にどのように対応しているかについてのガイダンスを
こちらに記載しています。
各国の規格の比較についての詳細は、
こちらの3Mの技術情報を参照してください。
N95 マスクの偽造品は、どのようにしたら見分けられますか?
N95マスクの偽造は,
3Mと
CDCが認識している
既知の問題です。N95 マスクの性能を確認するための認定試験施設が存在し、偽造の疑いがある個人用保護具の試験に使用できます。
CDCは
こちらで次のように述べています「NIOSHの承認を受けた個人用保護具の包装上または包装内(箱自体および/またはユーザーの説明書内)には承認ラベルが貼られている。さらに、使い捨て式防じんマスク自体にも承認番号が短く記載されている。
NIOSH 認定機器リスト (CEL) または
NIOSH Trusted-Source ページで承認番号を確認し、個人用保護具が NIOSH によって承認されているかどうかを確認することもできる。」。 不明なサプライヤーからのN95マスク の購入には注意し、認定されたPPEサプライヤーを使用してください。
ウェブサイトが偽造N95マスク を販売している可能性を示唆する指標については、
こちらの詐欺サイトを避けるためのCDCのヒントを参照してください。
3Dプリンターなどで自作した使い捨て式呼吸用保護具は、どの程度安全ですか?
3Dプリンターで作った自作の使い捨て式呼吸用保護具の安全性と効果については、私たちの関与外であり、コメントはできません。
3Dプリンター製の使い捨て式呼吸用保護具に関するCDCのガイドラインは
こちらのFAQをご参照ください。
N95マスク以外の使い捨て式呼吸用保護具はどのように除染できますか?
他の使い捨て式呼吸用保護具、取替え式呼吸用保護具、その他の呼吸用 防護具への除染方法の適用可能性については、まだコメントや判断することはできません。適切な公衆衛生ガイドラインやメーカーの推奨事項をご参照ください。
N95マスク は再使用しても大丈夫ですか? N95マスク はいつ廃棄すべきですか?
医療従事者は、非緊急時の FDA および CDC のガイドラインに従って、新しいN95 マスクを装備することを目指すべきです。
CDCは、N95マスクが深刻に不足する場合に向けた、限定的な再使用ガイドラインを提供しており、再使用前にN95マスクを除染する方法に関する情報を、最近
こちらに公開しました。
呼吸用保護具(訳注:N95マスク)のうち、呼吸がしにくいもの、目に見えて損傷しているもの、体液で汚れているもの、
フィットしないものは廃棄してください。
こちらの私たちが作成した
除染や廃棄に関するファクトシートの図解も参照してください。
N95マスクのフィットテストは、この状況下でもなお、必要ですか?
N95マスク使用者の顔に適切にフィットさせることは、マスクの効果を最大化するために非常に重要です。
フィットテストは、一般的に医療従事者が正しいサイズのN95マスクを見つけるために用いられますが、深刻なN95マスク不足に伴い、CDCは、フィットテストを行うことができない使用者のための
代替策を発行しました。
使用者がフィットテストを受けているかどうかに関わらず、N95マスク を装着するときに毎回、ユーザーシールチェックを行う必要があります。
マスクの再使用や除染によるフィット性への影響については、
こちらの解説をご参照ください。
N95マスクをどのくらいの期間装着した場合に、除染が必要になりますか? 患者毎に交換する必要がありますか?
CDCは、限定的再使用(呼吸用保護具の着脱を繰り返す)よりも、延長使用(呼吸用保護具を外さずに数時間継続使用する)を推奨しています。延長使用の場合の方が、マスクの取り回しが少なくて済むためです。CDCは、「粉じんの発生しない医療現場において、呼吸用保護具の最大連続使用時間を規定するのは、所定時間数ではなく、一般的には衛生的事項(例:汚染による防護マスクの廃棄)または実際的な事項(例:トイレの使用や、食事休憩など)である」と指摘しています。当該ガイドラインについては
こちらをご覧ください。
N95マスクの除染と再使用は何回繰り返すことができますか?
これは、各N95マスクのモデル、除染方法、および 使用状況に依ります。
CDC は
こちらで、「全ての使い捨て式呼吸用保護具のタイプとモデルの最大再使用回数を規定できるような簡単な方法はない。
ある研究は、同じ使い捨て式呼吸用保護具を20回までの着用すると、ヘッドストラップや他の部品に負荷がかかり、着用者の保護レベルを危険にさらす可能性が報告されている。」としています。
しかし、20回もの再使用は、除染プロセスによるマスクのフィット性や品質低下によって、行えないことも多々あります。
CDCにより引用された上述の研究では、5回の着脱サイクルでフィット性が許容できないほど低下したモデルがある一方、15回超の着脱サイクルでもフィット性が維持されるモデルもあるとの報告があります。
再使用回数に関するプロセス固有の限界については、各プロセスのFAQ(
HPV、
UVC、
熱)を参照の上、ご確認ください。
保管・回収・着脱についての最良のロジスティクス※の実践方法はどのようなものですか? 除染済みのN95マスクは、元の使用者に返却する必要がありますか?
※訳注: N95マスクの除染のための院内での物流、取り扱い手順
CDCは、
こちらにN95マスク再利用の取り扱いガイドラインを掲載しています。
また、
こちらのウェブサイトでは、N95マスク再利用の実践例を紹介しています。利用可能なリソースを考慮し、各々の状況に合致した実践方法の決定は、各病院の責任において行ってください。
元の使用者への返却なら、どのタイプの除染方法でも使用できますが、不特定の使用者への返却は、滅菌法(すべての微生物を死滅させる方法)を使用した時のみ検討可能です。
不特定の使用者への返却がフィット性にどのような影響を与えるかについての体系的研究はなされておらず、多くの医療従事者が個別返却を好むことが報告されています。
N95 マスクとそのしめひもの除染効果はどのようなものですか? 除染後のマスクはフィルター機能を失いますか?
これは、除染方法や個別のマスクのメーカーやモデルに大きく依存します。さまざまな 除染方法が異なるN95マスクとそのしめひもにどのような影響を与えるかについての文献レビューは、
こちらの技術レポートをご覧ください。
蒸気化過酸化水素(HPV)、紫外線(UVC)、加熱(Heat)を用いた除染のうち、どの方法が最良ですか?
私たちが目標にしているのは、N95マスクの除染技術について科学的文献からの知見について要約してお伝えし、医療従事者や第一線で活躍する人々がリスク管理上の意思決定を行う際、これらの情報を認識できるようにしておくことです。意思決定は、除染マスクの必要推定数、各施設のリソース、スタッフや設備を考慮上で、自らの選択で行うべきです。
プロセス固有の考慮事項については、各プロセスFAQ(
HPV、
UVC、
加熱)をご参照ください。
蒸気化過酸化水素(HPV)/過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌(HPGP)
HPVはN95マスクの除染に効果がありますか? どのように作用するのですか?
FDAは、2020年4月23日現在、
Battelle社、
Steris社、
ASP社などによる5つの特定HPV/VHP/HPGP除染プロセスについて、N95マスクの除染のための緊急使用許可書(EUA)を発行しています。これらのシステムは異なりますが、基本的には過酸化水素(H
2O
2)蒸気をマスクの表面で
凝結させ,それが水と酸素に変化するまでのあいだにウイルスならびに他の微生物を死滅させるものです。
HPGP除染プロセス(STERRADなど)も同様に、H
2O
2蒸気を室内に送り込むものですが、高周波で空気を振動させることで、その蒸気を急速に水と酸素に変換します。
HPVは病院で、芽胞形成した細菌であるクロストリジウム・ディフィシル(C.diff)やMRSAなどの耐性病原体で汚染された病室全体を除染するために用いられます。
N95 マスクは、何回まで HPV または HPGP での除染が可能ですか?
HPVとHPGPのどちらが使用されているかによって異なります。FDAは、(HPVを使用した場合)20回の除染サイクルが可能としてBattelle社を承認しましました。
これは未使用のN95 マスクのろ過効率、通気性、フィット性、しめひもの伸縮性が損なわれていないことを示すデータに基づいています。
Battelle社のHPVプロセスの場合、再使用回数の限度はおそらく5回程度であり、これはHPVプロセスそのものの問題ではなく、
着用の繰り返しによるマスクの変形に起因するものです。
一方、STERRAD HPGPで除染されたN95マスクは、ろ過効率が低下するため、
1回または2回以上の繰り返し除染は避けなければなりません。
特定の業者による実施導入についてコメントをいただけますか?(例:Battelle社, Sterrad社, Steris社)
N95DECONは特定の業者を推奨するものではありません。2020年4月23日現 在、5つの異なる会社のシステムがFDAの緊急認可を受けています。
Battelle社のプロセスでは、6つの除染センターの1つに、病院側が(使用済みの)マスクを詰めた袋を郵送し、
Battelle社は10日以内に除染されたマスクを返送します。
他の4つのプロセス(
Steris,
STERRAD,
Sterizone,
Sterilucent)は病院内でできますが、エアフローコントロール付きの部屋や除染専用のバイオセーフティキャビネットが必要です。
また、これらのプロセスは危険なため、適切な流量を確保するためのシステム操作を行う訓練を受けたスタッフが必要です。
私たちは
こちらのウェブサイトでは、過酸化水素を使用した病院のプロトコルの例をいくつか掲載しています。これらのシステムは、作用の仕組みやマスクへの影響などの面で、(それぞれ)大きく異なります。
他の形態の過酸化水素の使用は可能ですか?
病院で使用する過酸化水素システムは複雑で危険です。正確な使用量を確保 し、スタッフを適切に保護するには、訓練を受けた人のみが運用する必要があります。H2O2蒸気への曝露には、目・皮膚・肺の損傷などの危険があります。ネブライザーでエアロゾル化されたH2O2を使うためのいくつかの方法が、現在FDAによって検討されていますが、4/23/2020の時点ではまだ承認されていません。Steris社は、上述の蒸気化過酸化水素とはプロセスが異なる、乾式法あるいはVHPと呼ばれる方式でFDAのEUA認定を取得しています。
HPV 除染の実施を検討している病院が注意すべき主な考慮事項は何ですか?
この方法では、適切なHPVシステム(Bioquell社やSteris社など)を使用することで、1日あたり1000~2000枚のマスクを処理することができます。
このようなHPVシステムが既に病院にある場合、この方法にかかるコストは、部屋、消耗品、および除染スタッフになります。H
2O
2蒸気は刺激性が高く、肺および目に有害であることには注意が必要です。
そのため、この方法は、空気交換をオフにすることができ、除染プロセスが進行している間に人間が入る危険性がない部屋またはチャンバーで行わなければなりません。現場にHPVシステムがない場合は、Battelle社に、マスクを郵送しそのプロセスを利用することができます。Battelle社のプロセスは現在、
病院に無料で提供されています。
各病院は、除染されたマスクを共用の保存庫に戻すのか、元の使用者に戻すのかを判断する必要があります。HPVに関するファクトシートや技術資料は
こちらをご覧ください。
UVCはN95マスクの除染に使えますか?どのように作用するのですか?
特定の波長の紫外線(260 nm 付近にピークのあるUV-C)は、遺伝物質にダメージを与えることで病原体を不活化します。
査読された研究(
Lore et al, 2012;
Mills et al.,2018)では、N95マスク表面で1.0 J/cm
2以上のUV-C照射を行うことで、多くの対象N95マスクでSARS-CoV-2類似体を不活化(3log減少、99.9%又は1/1000以下の減少)したと報告しています;また、N95しめひもは、しばしば二次除染(例えば、適合性のある消毒剤で拭き取る)を必要とします。
N95マスクの UV-C 除染の有効性はN95マスク の材料を通るUV-C透過度が異なるため、N95マスク の モデルによって異なります。
病原体の不活化は、UV波長と線量に非常に大きく依存します;異なる病原体を不活化するためには、より大きなUV-C線量を必要とする場合があります。
しかし、実際にUV-C線量を大きくすると、
N95マスク の品質を損なう可能性があるため、代替プロトコルには検証が必要です。UV-C 線量は、UV-C 専用のセンサーで検証する必要があります。
N95マスクはUVC除染を何回受けることができますか?
1.0~1.2 J/cm
2のUV-Cを10~20サイクル適用しても、いくつかのN95マスクモデルでは
フィット性とろ過性能を保持しています。
しかし、一部のN95 マスク モデルでは、10サイクル未満の着脱の繰り返しで、N95 マスク の品質が損なわれる可能性もあります -
こちらの解説を参照してください。
除染に有効な、特定のUVCランプがありますか?
各病院は、リソースやスペース、処理の必要量を考慮して、それぞれの環境に適した供給元を決定する責任があります。
ネブラスカ大学医学部で使用されているプロトコルの例を
こちら
のウェブサイトに掲載していますが、現時点では特定企業による実施についてコメントすることはできません。
N95マスク に照射されるUV-C線量は、UV-C光源からの距離と角度に大きく依存するため、既存のプロトコルですでに検証されているものであっても、UV-C光源ごとに,各N95マスク 位置でのUV-C線量を検証する必要があります。
UV-C線量測定の詳細については
こちらの解説をご覧ください。
N95マスク に照射されるUV-C線量はどのようにして測定できますか?
N95マスク の各位置でのUV-C被照射量を測定するには,NIST-traceableで校正されたUV-C用のセンサーを使用してください。測定したUV-C被照射量を用いて、各N95マスク の全表面のUV-C線量1.0 J/cm2を満たすか、またはそれ以上になるように照射時間を計算する必要があります。
照射量(J/cm
2)は、放射照度(W/cm
2)に照射時間を乗じたものです。UV-C 照射量は、理想的には除染サイクルごとに検証されるべきです。最低でも、定期的に(例えば、毎日、設定されたサイクル数の後に)評価されるべきです。
UNMCプロトコルは、ClorDiSys光源センサモジュールを表示していますが、
UV-C除染に関する
Applied Research Associatesの報告書
および関連する
Millsらによる2018年の研究(ウイルス不活化研究を含む)では、ILT-1254/W放射計の使用が報告されています。N95DECONはどちらのセンサーもテストしておらず、特定の配給元を推奨していません。
日焼けサロンやネイルサロンで使用されているUVランプは、N95マスク の除染に使えますか?
効果があるとは考えられません。すべての波長の紫外線が除染に有効というわけではありません。UV-C(波長254nm)照射のみに殺菌効果がみられます。日焼けブースやネイルサロンの機器の多くはUV-AやUV-Bを照射しているため、N95マスクの除染には適していないと考えられます。サロングレードのUV-C除菌の有効性はまだ評価されていません。
N95マスクは太陽光で除染できますか?
2020年4月21日現在、
CDCはN95マスクの除染や再使用に太陽光を使用することを推奨していません。
専門家による研究で、N95マスク 表面のUV-C照射量が1.0 J/cm
2以上の場合、SARS-CoV-2類似体を不活性化することが報告されています。しかし、地表に届く太陽光には、
UV-C波長は含まれていません。
太陽光に含まれるUV-B波長は微小の殺菌力を持ちますが、N95マスクの除染に必要な殺菌照射量を得るには弱すぎると考えられます。詳細については、
UV-C技術報告書のAppendix Bを参照してください。
UVC除染の実施を検討している病院が注意すべき重要な考慮事項は何でしょうか?
UV-C除染の利点として、複数のN95マスク モデル上のSARS-CoV-2類似ウイルスのUV-C不活化(3log減少)について、実質的に査読されたエビデンスの存在が挙げられます(
Lore et al., 2012;
Mills et al., 2018)。
UV-C除染は、施設内で可能であるため、1度の処理にかかる時間が短く、実施形態にもよりますが中程度のスループット(時間あたりの処理量)をもたらします。
UNMCプロトコルでは、1回の除染サイクルあたり90個の N95 マスクを処理できますが、小さめのUV-Cチャンバーでは、1サイクルあたり10個の N95マスクの除染にとどまるかもしれません。
各除染サイクルあたりのコストは低いですが、適切なUV-C源やUV-Cセンサーを購入するために1000ドル程度の初期設定費用が必要となります。
UV-C除染の欠点やリスクとして、UV-CはN95マスク上の特定の病原体、特に細菌芽胞を不活性化できないかもしれないというエビデンスがあります。
二次汚染を防ぐためには、適切な労働衛生的な工学管理のワークフローの開発とスタッフのトレーニングが不可欠です。
N95 マスク の UV-C 除染の有効性は、除染ワークフローの実施に大きく依存しており、これには
N95マスク の両面への UV-C 照射量の確認、および特定のN95マスク モデルに対するプロトコルの検証を含みます。
その理由は、あるN95マスクモデルでは、
内部フィルター層へのUV-C透過率が低いためです。
さらに、N95マスクのしめひもは
UV-Cによる除染効果が低いため、二次除染(例えば、適合する消毒剤での拭き取り)を必要とすることが多々あります。
安全性の面では、UV-C放射は目や皮膚に有害であり、適切な工学的対策を用いて安全に封じ込めなければなりません。実施例については
UNMCのUV-C除染プロトコルを参照してください。
N95マスクの除染に熱は有効ですか?どのように作用するのですか?
熱と湿度のいくつかの組み合わせが、N95 マスクを除染する効果的な方法である可能性があるが、現在のところ、この主題に関する公表データはほとんどありません。
いくつかの査読されていない研究を含む私たちの
文献のレビューは、湿った熱(70〜85℃、湿度50〜85%)に1時間以上曝露すると、N95マスク上のSARS-CoV-2が不活性化される可能性を示唆しています(
Fischer et al., 2020;
McDevitt et al., 2010)。
しかし、これを確認するには実験が必要であり、この方法では細菌の胞子のような他の病原体を殺すことはできません。これらの研究の詳細については、
こちらの技術報告書を参照してください。
加湿熱がどのようSARS-CoV-2を不活性化させるのかはよく分かっていませんが、
塩類や他の溶質を含む水滴が周囲で蒸発することによりウイルスが変性されることに関係しているかもしれません。
N95マスクは何回の加熱除染を受けることができますか?
入手可能なデータによると、熱処理下でのマスクの耐久性は、特定のN95マスクモデルと使用された熱処理に依存することが示されています。
多くの一般的なモデルでは、60 °C・高相対湿度・30分以上の加熱サイクルを3回以上繰り返しても耐えられることが示されています。現在のところ、より高い温度およびより多くのサイクルに関する研究はほとんど存在しませんが、いくつかの一般的なモデルは、85℃までの熱処理では,機能的な品質にほとんど影響を受けないことを示した研究があります。
例えば、
最近行われたある非査読の研究では、(N95マスクの)一般的なモデルである3M 1860と3M 8210+は、85 °Cで30分のサイクルに5回耐えました。
熱処理下でのN95マスクの耐久性に関する利用可能な文献の詳細レビューと、特定のN95マスクモデルに対する熱処理の影響の分析については、
加熱に関するテクニカルレポートをご覧ください。
N95マスクの除染に乾式加熱を使用できますか?湿度はどの程度重要ですか?
これまでに発表されたデータでは、SARS-CoV-2の不活化に湿度がどの程度重要かは不明です。
他のウイルスについては、60~65 °Cの範囲で湿度に応じて不活化が変化したという報告があり、
こちらと
こちらには50%以上の湿度では乾式加熱よりもはるかに早く不活化したという報告もあります。
SARS-CoV-2の乾熱による不活化に関する知見はまだ得られていませんが、湿熱法と乾式加熱法の両方の実験から新たな知見が得られることを期待しています。熱については、
ファクトシートや技術資料をご覧ください。
熱による除染の実施を検討している病院が注意すべき重要な考慮事項は何ですか?
利用可能な文献から、加湿熱によるウイルス不活化の有効性は、1)温度、2)湿 度、3)曝露時間、4)局所環境(表面と汚染媒体、例えば粘液や唾液)に大きく左右されることが明らかになっています。
安全な除染のためには,注意してパラメータを決定する必要があります。さらに、加熱装置は非常に変動しやすいにため、温度と湿度を校正し、モニターする必要があります。
追加の研究でSARS-CoV-2の不活化レベルについて不明な点が明らかになれば、加湿熱処理が有効な除染方法になる可能性があります。
多くの病院にはすでに保温キャビネットや同様の装置が設置されているためです.熱については、
ファクトシートや技術資料をご覧ください。
オゾンはN95マスクの除染に効果がありますか? どのように作用しますか?
気体オゾン(本書ではオゾンと呼ぶ)がN95マスクの除染に効果があるかどうかについては、まだ十分なデータがありません。
酸素原子で構成された気体であるオゾンは、
消臭、
水質浄化、
農産物の殺菌、
特に細菌を中心とした殺菌
によく使用されています。
ウイルスの除染方法としてのオゾンの使用を支持するデータは限られています。オゾンは特定の種類のウイルスを不活化するのに有効であることが示唆されていますが、ウイルスの不活化に有効な用量範囲(オゾンガスレベル、曝露時間)についてはコンセンサスが得られていません。
オゾンは
OSHAによって規制されている曝露レベルではヒトへの毒性があることに注意することが重要です。
オゾン処理はN95マスクの品質とフィルタリング能力にどのような影響を与えますか?
オゾンは強力な酸化剤であり、有機分子と激しく反応します。オゾン曝露がN95マスクに及ぼす影響に関するデータは限られていますが、ある種のN95マスクに含まれる材料(天然ゴムなど)は、
オゾンに曝露されると急速に劣化することが知られています。
他の除染方法 (酸化エチレン、二酸化塩素、オートクレーブ、電子レンジ等)については?
これまでのところ、私共は、過酸化水素蒸気法、UVC法、加熱・加湿法の除染方法についてのレポートについてのみ公開しています。今後は、より多くの方法を検討し、ウェブサイト上で公開していく予定です。それまでの間、CDCのN95除染に関する推奨事項は
こちらを参照してください。
N95マスクを5日以上、特別な処理なしで保管することで、N95マスクを除染することができますか?
再使用する前に、清潔で通気性のある環境で、適度な湿度と室温の条件下でN95マスクを保管し、一定期間待つことは、最も簡単で最もコストのかからないウイルス不活化方法である可能性があります。
実際、CDCは、医療現場でN95マスクを除染する際の最初の推奨事項として、時間を置くことについて強調しています。
とはいえ、N95マスクの除染についての結論を導き出すために必要な、様々な表面上におけるSARS-CoV-2の寿命に関する公表されたデータはわずかです。
より明確で実用的なアドバイスを提供するために、新しい実験が緊急に必要とされる分野です。清潔で通気性のある容器に室温で個別に保管された N95マスクについては、再使用前に 7 日間の待機期間を設けることで、N95マスクを介した SARS-CoV-2 への曝露のリスクが大幅に減少すると予想されます。
この方法では、他の病原体に対する殺菌効果は期待できません。さらに、他の除染方法と同様に、適切な手指の衛生管理、
再使用の制限は必要ですし、破損したN95マスク、化粧品で汚れたN95マスク、血液や他の体液で汚染されたN95マスクは廃棄する必要があります。
詳しくはこちらの
時間除染のレポートをご参照ください。
小規模で資源に乏しい医療施設で実施できる除染方法はどれですか?
私たちは、高度に洗練されたものから比較的ローテクなものまで、さまざまな除染方法について文献を調査してきました。ある状況における最適な方法は,その利用者たちがそれぞれ決定しなくてはなりません。ご不明な点につきましては、
ウェブフォームからお問い合わせください。
医療従事者が家庭でN95マスクを除染するにはどうしたらよいですか?食品脱水機、食器洗い機、あるいはその他の家電製品は使用できますか?
汚染されたPPEに家族がさらされる危険性があるため、最前線で働く人がPPEを自宅に持ち帰って除染することは推奨しません。
これらの除染プロセスで、特にSARS-CoV-2 について検証がなされているものがありますか?
他のコロナウイルスも含めて、ウイルスの不活化についてどのようなデータが存在するかを判断するために、各方法について広範な文献検索を行いました。これらの知見については
技術報告書にも記載していますが、SARS-CoV-2を用いた試験は非常に少ないことから、これらのデータはまだ限定的です。さらに、査読を受けていない研究から得られた結果を解釈する際には、細心の注意が必要です。私たちのコンソーシアムや国際的な複数のチームが、それらの実験を計画しており、速やかなデータ収集と共有を期待しています。私たちの技術報告書は、最新の研究成果を反映させるために、定期的に更新される予定です。
他のPPE/衣類(スクラブ、病院ユニフォーム、防護服、ゴーグル) は除染できますか?
他のPPEや衣服への除染方法の適用性については、現在コメントや判断ができません。これは私たちの取り組みの焦点ではありません。
目の保護具や
防護服の最適化と除染用品に関しては、CDCのガイダンスや、
PPEの除染に関するAmerican Coll ege of Occupational and Environmental Medicine(ACOEM)の
ウェビナーを参考にしてください。
〇 謝辞
N95DECONの日本語翻訳版作成にあたっては、以下のメンバーに、ご協力頂いています(敬称略)。
太田由紀(帯広厚生病院)、奥野雅士(3M Medical Solutions Division)、草場恒樹(モレーンコーポレーション)、黒須一見(感染研)、佐々木美奈子(東京医療保健大学)、柴田英治(愛知医科大学公衆衛生)、タナカ千恵子(カナダ、カールトン大学)、津田洋子(帝京大学公衆衛生大学院)、久永直見(愛知教育大学)、吉田理香(東京医療保健大学)、宇田真弓(静岡県産業環境センター)
監修:吉川徹(労働安全衛生総合研究所)、菅原 健(国立大学法人電気通信大学)
N95DECON連携翻訳チーム 担当:吉川徹(職業感染制御研究会)
2020年6月1日(最終更新 2020/06/01)
一般社団法人職業感染制御研究会
COVID-19 に対応する医療従事者の個人防護具確保のためのワーキンググループ
(Ensuring PPE for COVID-19 Fighters Working Group:PPEWG(ピーウオグ))
及びN95DECON連携翻訳チーム