ホーム 研究会について 活動 エピネット日本版 全国調査(JES) 感染症の基礎知識 針刺し予防策 関連情報 FAQ
3.血液媒介感染症の概要
ア.HIV感染症/AIDS
臨床的特徴
 HIV(Human Immunodeficiency Virus)を病原体とする感染症の全経過をまとめてHIV感染症と呼ぶ. HIV感染症の経過のうちで、特徴的症状とされるカリニ肺炎や食道カンジタ症などの日和見感染症やカポジ肉腫や脳リンパ腫などの二次悪性腫瘍などが明らかにみとめられるときはその診断基準に従ってAIDS(エイズ;Acquired Immunodeficiency Syndrome)と呼ばれる. AIDS診断基準には厚生労働省エイズ動向委員会の診断基準がある.
 HIVに感染すると大多数は無症状のまま経過するが、感染初期には伝染性単核球症、インフルエンザ様の急性症状が2-3週続くことがある.その後、CD4陽性リンパ球に次々と感染がおこり、徐々にCD4陽性リンパ球が減少する.そして、リンパ球の減少は全身の免疫状態の低下を引き起こし、特異な二次疾患を合併したAIDSへと進行していく.HIV感染後、自然経過では2-3年で10%、5-6年で約30%、7-8年で約50%がAIDSを発症し、20年以内に90%が発病するという推定もある.現在では効果的な薬物治療の開発によって、HIV/AIDSはすでに慢性疾患としての認識が進んでいます。
検査
 HIVは、レトロウイルス科レンチウイルス亜科に属し、さらに遺伝子構造や抗原性の違いによりHIV-1、HIV-2に分類されます。臨床検査として免疫学的異常、すなわち1)末梢血リンパ球の減少、2)CD4リンパ球数減少などが重要.ウイルス学的検査としてウイルス分離は容易ではありません。血中抗体の測定はスクリーニング法としてELISA(約2%が偽陽性を生じる)、ゼラチン粒子凝集法(PA)、受身血球凝集反応(PHA)、確認法としてWestern Plot法を併用します。抗体陽性者はウイルス保有者とみなされるます。
疫学的特徴
  AIDSは1981年米国で患者が発見されて以来ほとんどすべての国で発生しています。日本のAIDS流行の特徴は1990年代前半は凝固因子製剤によるものが中心であったが、現在では、異性間接触による感染が男性同姓愛のそれを上回って増加しています。病原巣はヒト.主な感染源は血液と精液です。母乳・唾液・涙・尿・髄液や膣分泌液からもHIVの分離の報告はありますが、膣分泌液と母乳以外は感染源としての意義は低いです。伝播様式はウイルス保有者との性交、汚染血液の傷口侵入、感染母親から新生児へ胎盤あるいは産道を介して(30-40%).飛沫感染、経飲食物感染や通常の接触による家族内感染例の報告はありません。
イ.B型肝炎
臨床的特徴
  B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus)の感染には一過性感染と持続感染の両者があります。HBVに感染した場合、宿主の免疫応答が充分であれば感染は一過性で、感染肝細胞は破壊され、やがてウイルスは完全に排除されて治癒し、宿主は終生免疫を獲得します。これは、B型急性肝炎と呼ばれるもので、通常一過性であります。これに対して、宿主の免疫機能が未熟な時期、あるいは免疫不全の状態下で感染した際には、ウイルスを排除することができず、ウイルスが長期にわたって肝細胞内で生存し、増殖し続けることになります。これがHBVの持続感染であり、このような状態にあるヒトをHBVキャリアと呼びます。 一過性感染例、持続感染例ともにHBV感染の感染源となりうりますが、持続感染例はその一部が慢性肝炎、肝硬変、さらには肝細胞がんへと進展し、C型慢性肝炎とともに慢性肝炎の高危険度集団となります。キャリア状態からこれらの転記をとる率については明確ではないが、わが国での肝細胞がん発生までの最悪の転記をとるものは全キャリアの1%に満たないものと考えられています。
検査
  HBVはDNAウイルスである.HBV関連のマーカーとしてHBs抗原-抗体系、HBc抗原-抗体系、HBe抗原-抗体系およびDNAポリメラーゼなどがありますが、これらはHBVの急性感染、あるいは持続感染において、一定の動きを病期に応じて示すことが知られています。したがって、これらを総合的に把握することによって、感染状態を診断し、あるいは病期を判断することができます。
疫学的特徴
  1994年のHBVの保有者は全世界で3億人でこのうちアジアが2億2000万人です。日本では1970年代に約300万人(日本全人口の2.7%)であった保有者が、1994年には110万人(日本全人口の0.9%)に減少し、HCVの保有者160万人(日本全人口の1.3%)を下回りました。病原巣はヒト.感染源は顕性・不顕性の一過性感染例および持続感染例からの血液、血液製剤およびこれらによって汚染された医療器具などの器具、器物.血液によって汚染された唾液、乳汁、その他の分泌物、これらによって汚染された器具、器物も感染源となる可能性があります。
 伝播様式は非経口感染が主であります。キャリアである母親あるいは肝炎の急性期にある母親からの出産に伴うHBV感染でキャリア化するものが多いとされていますが、乳幼児期までの間に、カミソリ、歯ブラシ、タオル等の共有などによって、同居家族から感染することも少なくないとされています。また、夫婦や同姓愛間の性交渉によっても感染します。 HBVの院内感染の危険性:HBVは、HBe抗原陽性血液の感染性が非常に高く、血液のウイルス価は108/mlで108倍(1億倍)に希釈した血液を1ml静脈内投与しても感染おこる可能性があります。また、針刺し切創の確率は2-40%で、通常3分の1の確率といわれ、HIVに比較しても非常に高いです。しかし、ワクチンや汚染事故後のHBIG投与により感染防止が可能となり、医療従事者の職業感染は減少していると考えられます。
ウ.C型肝炎
臨床的特徴
 発症は通常潜行性で食欲不振、全身倦怠感、腹部不快感、悪心嘔吐などB型肝炎とよく似た症状で始まります。しかし、発病率はB型肝炎よりずっと少ないです。重症度はまったく症状を示さないものから、劇症化するものまでさまざまであるが、B型肝炎より急性期での予後はよいとされています。なかには症状をまったく示さない健康ウイルスキャリアもいます。急性期C型肝炎は、一部は治癒し、HCVは完全に排除されます。しかし、免疫機能が正常な健常成人に高頻度に持続化し、約60%が慢性肝炎に移行し、その半数が肝硬変に移行し、さらに、その半数以上が肝細胞がんを発生します。一般に、HCV感染が持続化する場合は、急性肝炎に続く肝障害が数年で鎮静化後、20-30年無症候性の持続感染が続き、肝炎が再燃し強い肝障害が持続すると慢性活動性肝炎から肝硬変へと進行し、最終的に肝細胞がんを発症します。
検査
  HCVは小型RNAウイルスで、フラビウイルス科に属します。第2世代抗体、第3世代抗体と呼ばれるHCV抗体検査が一般化されています。PCR法によりウイルス量を特定する方法も用いられてきています。
疫学的特徴
  1989年に非A非B型肝炎の原因ウイルスが発見され、C型肝炎ウ  イルスと命名され、そのHCV抗体検査法の普及によって、それ以前に非A非B型肝炎に分類されていた輸血後肝炎の大部分がC型肝炎であることが判明しました。日本のHCVの保有者の数は160万人で日本全人口の約1.3%です。また、HCV保有者が200万人存在し、そのうち140万人が慢性肝炎、30万人が肝硬変、40万人が肝機能正常のキャリアであるとの推定もあります。HCV保有者の年齢別分布推定は、50歳以上では2.29%を示していますが、若年者に向かうほど低下し、20歳代では0.62%となり、15歳以下では輸血後のC型肝炎の既往を除けばHCV感染者はほとんどいません。伝播様式は、HCVを含む血液の輸血や、血液製剤によりますが、他に感染経路として、性行為、母子感染もありますが、一般的に感染、血液媒介感染症としては、輸血が最も大きな感染経路で、慢性C型肝炎患者の約40%に輸血歴がみられますが、C型輸血後肝炎の1992年に第2世代抗体のスクリーニングが導入され、現在では輸血による感染はほとんどなくなりました。また、血液製剤も加熱処理や濾過法によりHCV感染防止対策が確立されています。   
院内感染の危険性
  HCVの医療従事者における職業感染は、針刺し切創などにより感染し、急性肝炎を発症した例が日本及び海外で報告されています。しかし、針刺し切創による感染率は主な報告から3%程度と考えられ、HIV約0.3%より高いがHBV約30%より低い.しかし、HCVの医療従事者の急性C型肝炎の報告は少なくなく、関連した訴訟も起きています。また、事故が起こったとき場合、HBVのように特異的に予防できる免疫グロブリンや治療法も確立されていないために、充分な対策が必要です。
エ.梅毒トレポネーマ
  梅毒トレポネーマの感染によって生じる感染症は梅毒と呼ばれています。先天梅毒と後天梅毒とに大別されますが、性行為感染症として有名なのは後者です。梅毒は世界中に広く分布していますが、戦後ペニシリンの汎用に伴い、激減したが、現在でも若年者や男性同姓愛者に散発する流行がみられ、楽観視はできません。 検査には大別して1)カルジオライピン抗原を用いる検査(STS:serologic tests for syphilis);ガラス板法・凝集法・RPRカードテスト・緒方法などと、2)トレポネーマを抗原とする反応検査;TPHAテスト、FTA-ABSテストなどがあります。その組み合わせによって、現在の感染の有無、活動性、治癒判定などに用いられています。 梅毒トレポネーマ感染源は、患者の皮膚及び粘膜の湿潤性初期病変の浸出液、伝染性にあるヒトの唾液、精液、血液、膣分泌物などであります。病原巣はヒトのみです。
  伝播様式は、梅毒の第1期および第2期における性交を主とする直接接触伝播(時にキス)によります。汚染された物品に触れた時の間接的な伝播もごくまれにあり、時として輸血による伝播もあります。第1期および第2期の未治療の梅毒患者の血液による針刺し切創も感染源になりうると考えられますが、感染確率等は不明です。現在、梅毒に効果的な抗生剤が早期に投与されることが多く、日常診療で感染性の高い梅毒の患者に接する機会はまれであると考えられるます。したがって、最近では梅毒の関連検査はルーチンで実施していない施設が増えてきています。
オ.HTLV-1感染症、成人T細胞白血病(ATL)、成人T細胞脊髄麻痺(HAM)
  HTLV-1感染者(キャリア)のほとんどは病気を生涯発症することなく、ごく一部のキャリアが成人T細胞白血病(ATL)または成人T細胞脊髄麻痺(HAM)を発症します。検査は1)PA法、2)EIA法、3)Western Plot法、ならびに4)IF法(間接蛍光抗体法)がありますが、通常1)2)でスクリーニングして、3)4)で確認することが必要です。
  伝播様式としては1)母児感染、2)性交感染、3)輸血感染、4)汚染注射針等による感染が知られています。母児感染はほとんどが母乳を介して感染、性交感染は夫から妻への精液による感染がほとんどで、妻から夫への感染はほとんどないとされています。輸血は感染者の白血球を介して起こるため、血漿のみの輸血では感染しません。汚染注射針等による感染は主に静注用薬物常用者に起こり、欧米ではAIDSとともに社会問題になりました。 血液汚染針による感染率はHIVより高いことが知られており、発症した場合の死亡率が高いことから、C型肝炎と同様に医学的に必要と認められる期間、経過観察が必要です。
「病院等における災害防止対策 研修ハンドブック 針刺し切創防止版」(発行 地方公務員災害補償基金、平成22年2月)からその一部を、許可を得て改変、転載。